亜炭香古学~足元の仙台を掘りおこす

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埋木細工2.0展【報告】

2013年10月24日

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「杜の都のクラフトフェア」(10月5~6日@サンモール一番町アーケード)にあわせ、東北工業大学一番町ロビーにて「手のひらの工芸」展(「埋木細工2.0展」との合同展)が行われました。クラフトフェア参加作家による工芸作品と、今回初めて埋木細工に挑戦した平成の木工作家たちによる埋木細工作品をあわせて展示したものです。

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  ◆ 『埋木細工2.0展』

産業として栄えた時代は終わり、その名のとおり世に埋もれつつある埋木細工。2012 年の亜炭香古学では「わが家の埋木細工展」として、各家庭にある埋木製品を、入手のエピソードとともに紹介・展示しました。広く普及していた時代を知る人も知らない人も、あらためてその質感と背景の深さに目を奪われました。企画した私たち自身もこれを過去のものと思い込み、原木を見ることなど出来ないと考えていましたが、かつての埋木店主や地元愛好家との縁を得て、幸運にも少量の埋もれ木を入手することができました。また、小竹さんのところにお弟子さんが入り、我々同様、埋木での制作を試みている方がほかにもいることを知りました。この絶滅寸前の埋木文化に意外にも新しい動きが芽生えつつあるいま、現代の暮らしにあう平成の埋木細工とはどんなものかを、若い木工作家に提案してもらう試みとして「埋木細工2.0」展をクラフトフェアで開催します。

※※「2.0」は、新世代のもの、バージョンアップをなぞらえた表現。

日時:2013年10月4~9日
会場:東北工業大学一番町ロビー
主催:仙台市、(公財)仙台市市民文化事業団
協力:杜の都のクラフトフェア実行委員会(東北工業大学一番町ロビー/南町通りオープンギャラリーくろすろーど)
助成:(財)地域創造
コーディネーター:渡邉武海

  

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筑前賢太(モノノケワークス)/『ウモレギスイッチ』

作者コメント:
数千年、はたまた400万年という悠久の歳月を経てきた埋もれ木を想うと、人間である自分とは大河の一滴でしか無いと実感することが出来る。そんな自分の悩みなんて案外ちっぽけだったりします。このウモレギスイッチで、悠久の時を想いながらスイッチ(切り替え)すればそんなちっぽけな自分に気付けるかもしれません。

 

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鈴木綾乃(小竹孝埋木細工工房 秋保工芸の里 研修生)/『埋もれ木チョコレート』

作者コメント:

普段埋もれ木で何か作る場合、仕上げの時はラッカーか漆を塗って仕上げるのですが、何も塗らない埋もれ木そのままの色がとても良いチョコレート色で(物にもよりますが)大好きなんです。そこで品物を作っている時に出た切れ端をそれっぽい形に削って、磨いて、何も塗らない代わりにお菓子を包んでいた銀紙に包んで、他の工房の研修生の人に「チョコレートどうぞ」って、そっと差し出してみるわけです。そうしたら、これは面白い!って喜んでもらえたんです。それが私も嬉しくって、こういうただ綺麗なだけじゃなくて、ちょっと面白いなと思ってもらえるようなものをこれからも作っていけたらいいなあとその時思ったのです。難しいんですけどね。

 

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監物政吉(監物炭鉱)/『将棋駒』

平成に入ってからも亜炭を採掘し続けた数少ない鉱山の1つ、監物炭鉱(山形県新庄市)。監物氏は、昼間は坑夫として亜炭を採り、仕事が上がって晩ご飯がおわると、今度は取り置いていた埋木を使って将棋の駒を制作した。ベルトサンダーや刃物で成形し、文字に金色の粉を埋める手法で40枚一組の駒を作って鉱山関係者を中心にプレゼントしたという。監物炭鉱では、仙台の埋木細工店から頼まれて卸すほど良質の埋木が産出した。また監物氏は、終戦直後には楽団をつくって歩いていたそうで、今もセルマー製のサックスを出して演奏することがある。モノのない時代の限られた環境の中でも日常を楽もうとする創意工夫の力強さが窺える。
(解説:伊達伸明)

 

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高橋研二/写真左 『イタミ』 、 写真右 『回す(失敗と成功)』

作者コメント:

400万年埋もれていたという亜炭。今回、「時間」と「痛み」をテーマに作品を製作しました。
彫刻刀のキワ型と切出小刀の二本を使用。事前に頂いていた資料によると、石膏・印石・コクタン程度とあったので、とても硬いという先入観がありましたが実際に削ってみるとそれ程でもないように感じました。メラミン化粧板を軟らかくしたような削り心地でした。
やはり、繊維の直交方向に弱く生活道具として繊細な物を製作するのは難しそうでした。飾り物だったら繊細な物も製作できそうな気がします。今回オイルで仕上げたのですが、圧縮されたきれいな木目がオイル塗布後目立たなくなってしまったのが少々残念でした。

 

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齋藤英樹(木のしごと樹々)/『RINGS』

作者コメント:
 普段から木を扱う仕事をしていますが、全く別の素材でした。
 木というより、石や金属のような感覚。
 数センチ切るために新品の刃物が悲鳴を上げます。
 木目に注意しても予想外の所で割れてしまいます。
あえてその割れを楽しもうと思いました。

  

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 広野じん(木彫家)/『ど~なっつ』

作者コメント:

前々から興味のあった素材だったので、今回はその機会を与えていただき、感謝しています。
 材の印象は、「硬く、割れやすい」というのが第一印象でしたが、削って行くに従って、独特の黒茶の光沢が綺麗で、手に持った重さも程良く重く、硬いとはいえ、やっぱり元は木である事が彫ると感じられる素材でした。
材に癖や、バラつきも多々あるのでしょうが、貴重な体験でした。


 

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藤原茜/『掛け時計』(上写真)  『一輪挿し』 ※2作品

作者コメント:
初めて見た時から、私は「埋もれ木」に魅せられていました。
長い年月や、自然の力によって変質し、形づくられたその姿はそのままでとても美しいものだったからです。
これに私が手を加えるのかと恐れ多く感じましたが、その気持ちから、埋もれ木の表情を残し、生かした作品にすることを意識し制作しました。着目したのは、繊維方向に対してほぼ直角に入ったヒビ、繊維がはがれたあと、磨かれ生まれた、光沢のある木の肌です。それらを用い、掛け時計と、一輪挿しを制作しました。構造体やパーツに、普段使用する木材ではなく鉄や真鍮を用いたのは、対比を強め、より埋もれ木を際立たせる為です。 

 

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 松浦丹次郎(川埋もれ木工芸作家、あぶくま沈木会)/『茶入れ』 (材はカツラ、阿武隈川産)

作者コメント:

川埋もれ木の魅力の第一は何と言っても黒変した木理の文様である。その文様は様々な形があるが、時には神々しいほど不思議なものもある。埋もれ木には硬くて艶のあるものや軟らかい材まで色々ある。それらは数百年~数千年、川中に浮き沈みしてきた環境の違いによると思われる。もちろん腐って消えてしてしまったものも多いに違いない。川埋もれ木の多くはがヒビ割れている。ヒビ割れのない極上のものを探し当てるのは容易でない。中世には名取川の埋もれ木灰が名品として公家衆や幕府要人たちへ献上されていた。江戸期の文人たちも阿武隈川の埋もれ木製の硯箱・文台・垂撥などを愛で求めていた。

 

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伊達伸明(美術家)/『埋木皿』

作者コメント:

ひょんなことから、入手不可能と思っていた埋木の原木を手にすることが出来た。黒灰色のそのかたまりは繊維に沿って深く割れ、表皮も網の目状の亀裂で覆われていた。聞くところによると、太古の昔に火山の火砕流で土中に埋まって煮物の白ネギのように扁平につぶされた巨木が、400万年もの間地下水に浸されたのち掘り出され乾燥したものという。人の赤ちゃんの産声は、水から空気へと環境が激変したことによる「叫び」だというから、乾燥時のストレスで出来た埋木のヒビも、地上デビューのご挨拶と思えなくもない。
そんな身のよじれをていねいに避けたり活かしたりしながら作られた埋木工芸品には、太古のドラマとそれを愛でた仙台の人々の1世紀半が積み重なっている。木と土からなる「杜」という字がだんだん埋木に見えてきた。 

 

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(写真上、下)菊地良覺(東北工業大学)/『試作品』

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 階段の上では、さらにもうひとつの展覧会「時松さんが歩いた東北」展が開催されていました。

 東北の「工芸」が多様な切り口で楽しめる展示となりました。