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【レポート】仙台インプログレス 近くて遠い海を眺める

2026年01月28日

アートノードではフランスを拠点に活動するアーティスト 川俣正さんと、長期的なアートプロジェクト「仙台インプログレス」を2017年より進めています。

これまで、仙台市宮城野区岡田新浜地区において《みんなの木道》、《新浜タワー》などを制作、2023年度からは、若林区井土地区にも活動を展開し《井土浜パーゴラ》《井土浜テラス》などを制作しました。

2025年度は、川俣氏とアーティストの牛島達治が主宰する汎用動力研究所(牛島達治、八木温生、何 梓羽)が中心となり《新浜ペリスコープ》を制作しました。制作期間中に、津波警報が発令されたり、緻密な構造の作業が一筋縄ではいかなかったりと、予定の変更も多々ありましたが、10月28日に、地域や関係者の方々を招いて、作品お披露目会を開催することができました。

映像記録は、https://www.youtube.com/watch?v=nHbzoNSA4bk よりご覧いただけます。

 

《新浜ペリスコープ》で水平線を臨む

 

海を眺める作品をつくる

東日本大震災により、貞山運河にかかる人道橋がなくなり、海へ簡単にはいくことができなくなっている新浜地区で、橋をかけることをスタートに始まった仙台インプログレスですが、この近いのに遠くにある海を感じるための作品として考案されたのが、《新浜ペリスコープ》です。ペリスコープとは、潜望鏡のことです。そのアイディアは、2024年度に実施した「アートノード・ミーティング12」の場で生まれました。

会場で描いたイメージドローイング

特に今回川俣さんは、自分だけではできないことを他のアーティストを巻き込むことで実現していこうという方向性を持っていました。仙台インプログレスにとって新しい展開です。

この作品は、名前の通り、潜望鏡のように、遠くを眺めることが想定されました。しかし、単純な構造のようで難しく、その制作には、技術的に必要な部分も多くありました。そこで、共同制作をするアーティストとして声がけしたのが、横浜を拠点に活動をしており、機械的な作品や動きを伴う作品を制作することで知られている牛島達治さんです。川俣さんとは旧知の関係ですが、共同制作は初めてのことでした。

今回、作品を制作する場所は、海から約800m離れていることに加え、途中に高低差や松林、防潮堤などがあり、高さが必要でした。そこで、牛島さんと牛島さんが主宰する汎用動力研究所に所属しているアーティスト、八木温生さんと、何 梓羽さん、日本での川俣さんの制作チームである鈴木事務所の鈴木さんとともに、高所作業車で、海が見える高さを確認しました。その結果、約15mの高さであれば、十分に海を見ることができることがわかりました。また、海とは反対方向に眺めることができる泉ヶ岳などの山々の美しさから、海だけでなく山も見えるようにしたいと、理想が広がっていきました。

高所作業車で海の見える高さを確認する。仙台の沿岸部は風が強く、体感よりも寒く感じる。

次に検討したのは、アナログかデジタルかということです。当初、アナログでの制作をしようと考えていましたが、海までの距離や約15mの高さが必要なことから、さまざまな課題が浮かんできました。最終的には、川俣さんの判断によりデジタルでの構造を検討することになりました。

汎用動力研究所のスタジオ(横浜にある「ExPLOT Studio」内)での検討

模型を使って、像の見え方を確認する

 

制作のはじまり

作品の方向性が固まったことから、5月より制作を開始。制作チーム(鈴木雄介、野地真隆、深野元太郎)と地元工務店により、鉄塔や映像を見るためのモニターのための基礎工事、鉄塔の施工を行いました。

7月27日に川俣さんと制作チームが仙台入り。井土町内会との意見交換や市長表敬をしました。そして、汎用動力研究所の3人も29日に現場入りしました。

川俣さんと制作チームは、木材を用いてテーブル、ベンチなどをテンポよく制作、ペリスコープの動力になるソーラーパネルなども用意していきます。一方、今回の作品の“肝”と言える望遠システムは、一筋縄にはいきません。細かいパーツの組み立て、配線など、緻密な作業が求められます。

映像を見るための百葉箱を模したモニター

 

思わぬ事態

そんな最中、7月30日に発生したカムチャツカ半島付近の地震による津波警報が発令。東日本大震災後に14年ぶりに津波警報が発令されたこともあり緊張が走りました。作品を制作している場所は、津波避難エリアであり、警報が解除されるまで作業を一時中断し、避難をしました。

その後、制作を再開しましたが、スケジュールに遅れがでるとともに、8月2日に予定されていた、新浜町内会主催のフットパスも中止となりました。しかし、せめて交流会は開催しようということで、みんなの家を会場に8月1日に実施しました。井土町内会の方々、関係者の方々、せんだいメディアテークの館長に今年から就任したロバート キャンベル館長も参加し、親睦を深めました。

完成に向けて

川俣さんと制作チームは、他の作業日で、ペリスコープを囲む意匠やフェンスなどを制作していきました。

また《新浜ペリスコープ》制作の合間に、井土町内会との意見交換のなかであがった、花壇を井土地区薬師堂の両脇に制作、設置しました。

望遠システムを担当する牛島さんらも着々と制作を続けましたが、予定していた期間での完成は難しく、継続した制作となりました。

お披露目会

当初、夏の間にお披露目予定だった《新浜ペリスコープ》ですが、津波警報やその後の望遠システムの調整に時間を要し、10月28日についにお披露目の時を迎えました。町内会や関係者にも集まっていただき、川俣さん、汎用動力研究所の3人から挨拶がありました。その後、牛島さんによる動作の説明があり、参加者たちは順番にペリスコープを操作、海や山々を眺めました。

 

2016年のリサーチから始まり、10年を経た仙台インプログレス。《新浜ペリスコープ》は、川俣さんからの仙台インプログレス10年目の問いかけのような作品です。これまでと同じように地域の声を参考にしつつも、実験的で見たことがない作品に仕上がりました。この作品が、今後どのような影響をもたらしていくのか、仙台インプログレスが続いていくなかで楽しみにしたいと思います。

 

撮影:渡邉 博一、アートノード

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