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【レポート】仙台インプログレス 若林区井土地区での新たな展開

2023年09月05日

アートノードではフランスを拠点に活動するアーティスト・川俣正さんと、長期的なアートプロジェクト「仙台インプログレス」を2017年より進めています。

これまで、仙台市宮城野区岡田新浜地域において《みんなの木道》、《新浜タワー》など多くの作品を制作してきました。今年度は、昨年制作した《みんなの橋(テンポラリー)》を再制作するとともに、新たに若林区井土地区に活動エリアを広げ、《井土浜パーゴラ》、《テーブル》、《ベンチ》を制作しました。また、8月11日(日)に行われた、井土町内会、井土まちづくり推進委員会、井土実行組合が主催したイベント「第2回井土プチマルシェ」にて、ベンチ制作ワークショップを開催しました。

《井土浜パーゴラ》の初期スケッチ

井土地区でのはじまり

仙台市沿岸部の震災からの復興をめぐる状況は、各地域により大きく異なります。
井土地区の状況を発信している「井土まちづくり情報局」では、井土地区の概要を以下のように整理し、現在の取り組みについて解説しています。

【井土地区の概要】

仙台市若林区井土地区は、東日本大震災で発生した津波によって甚大な被害を受けたことから、当初は地区全体が災害危険区域となることが想定されていましたが、最終的には地区の大部分が災害危険区域から除外されて再建可能となりました。しかしながら、仙台市震災復興計画が策定された2011年11月の時点で多くの住民が安全な内陸部へと住居の移転を果たしており、103 世帯のうち井土地区に残ったのはわずか11世帯でした。井土町内会は存続したものの、居住者の高齢化に伴う井土地区の自治機能の低下や宅地跡地の荒廃化等、さまざまな課題が地区内に見られるようになりました。

【現在の取り組み】

上記の課題と向き合うために、2021年7月に震災前まで井土地区に暮らしていた住民が集まり、当地区の今後について積極的に、そして前向きに検討していくための住民団体「井土まちづくり推進委員会」が設立されました。かつて暮らしていた住民へのアンケート実施やお便りの発行をとおして、「ふるさと」としての井土の継承を多世代で考えていくための場づくりを始めたところです。

井土まちづくり情報局「井土の「今」を発信していきます!」,2022年3月11日
https://note.com/ido9840842/n/n9c69f82ed392

「井土まちづくり推進委員会」は、こうした状況をうけて、井土町内会など他の団体と協力しながら、「井土まちづくり学習会」や「自然環境学習会」、「井土のこれから大会議」など、井土の魅力や課題を再確認する機会をつくりながら、新たなまちづくりに取り組んでいます。

2023年8月4日に行われた「井土自然環境学習会vol.04「むかっち博士の押し花ワークショップ」」の様子, 写真:井土まちづくり情報局(https://note.com/ido9840842/n/n4b7127710079

2023年6月3日に行われた「第2回井土のこれから大会議」の様子, 写真:井土まちづくり情報局(https://note.com/ido9840842/n/n9d160cfff057

※井土地区の情報は「井土まちづくり情報局」のほか、「井土まちづくりレポート」にておしらせしています。

 

仙台インプログレスができること

2023年3月の視察の様子

仙台インプログレスも、昨年度より井土地区にゆかりのある方々にお話しをうかがいながら、様々な可能性を探ってきました。

震災前、住宅が軒を連ねていたメインストリートは、現在住まわれているお家や事業所などのほかには、空き地となっており、利活用の方法が課題のひとつとなっています。
住宅基礎が残された土地は、元住民のみなさんが少しずつ手入れをしたり、お花を植えたりしているものの、たくさんの雑草が生い茂り、少し殺風景な印象を受けます。

井土地区では、2022年の6月から東日本大震災の月命日(毎月11日)に「井土クリーン作戦」と題した、地域の清掃・美化活動を行っています。
現/元住民の方が集まり、ごみの収集や草刈り、プランターに花を植えて町内の各所に設置する取り組みです。

2023年3月11日に行われた「井土クリーン作戦」の様子, 写真:井土まちづくり情報局(https://note.com/ido9840842/n/n4b7127710079

「井土クリーン作戦」は地域の清掃であると同時に、かつて暮らしていた住民のみなさんが定期的に集まり、情報交換や、顔を合わせて話をすることのできる機会でもあります。
その際、悩みの種となっていたのは、主な活動場所である井土のメインストリートに休憩や座って世間話ができるような場所がないことでした。
そこで、今年度は、ちょっとした日陰になるパーゴラや、腰かけて一息つくことができるベンチやテーブルを制作することになりました。

場所の選定は、井土町内会の協力で、作品の設置に協力していただける宅地をピックアップしてもらいました。
土地の中には、いますぐに有効な活用方法を見つけるのは難しいけれど、少しでも地域の役にたってくれたらという想いでご協力いただいている場所もあります。

その後、下見やスケッチ、お手伝いいただく地元の工務店さんとの打合せを経て、制作に入りました。

 

《ベンチ》スケッチ

《ベンチ》スケッチ

《テーブル》《ベンチ》スケッチ

《井土浜パーゴラ》スケッチ

制作の様子

8月7日から10日にかけて、現地での制作に取り組みました。

東北芸術工科大学企画構想学科田澤ゼミの学生さんが視察に来てくれました

「仙台インプログレス」の焼き印を押す川俣さん

作品

作品は、井土地区の400メートルほどの距離のメインストリート間、9カ所に設置されています。

住宅の基礎に沿わせるように取り付けられたベンチや、かつての家の玄関が残る、宅地の中に置かれダイニングの風景を思い起こさせるように配置されたテーブルなど、新たにモノが置かれることで変わる景色があります。
ただ利用してもらうためのものでもなく、鑑賞するための作品でもない、仙台インプログレスにおける川俣正の作品とはなにかという問いを考えるためのきっかけになる、井土地区での初年度の制作になったように思います。

 

第2回井土プチマルシェ

井土町内会、井土まちづくり推進委員会、井土実行組合ら地元の方々が主催する第2回井戸プチマルシェが、2022年10月の第1回目に続き8月11日(祝・金)に開催されました。
※井土まちづくり情報局によるレポートはこちらから。

仙台インプログレスは「ベンチづくり屋台」として、来場者といっしょに木製ベンチを制作しました。
ベンチは誰でも簡易に作ることができるように、少ないパーツで設計されています。

30組用意していた材料は開始1時間で完売に!

小さなお子さんから、お年寄りの方まで、力強く釘をうちこんでいきます。
庭先や畑で使える便利なベンチには仙台インプログレスの焼き印が入っています。
作品で使われている木材と同じものを使っているため、とてもしっかりした作りです。

通りに設置した《ベンチ》や《テーブル》は、日差しが強いマルシェやクリーン作戦の最中に、一息つくことのできる場として使ってもらっていました。

マルシェの最後には、川俣さんがこの先も井土と関わっていくと、言葉を残しました。
ふるさととしての井土を考えるため、地域の方々に関わり続けてもらうひとつのきっかけとして、作品が機能していくことで、アートとまちづくりがどのように協働していくことが可能なのか考えることができると思います。
今回の制作を足がかりに、今後も仙台インプログレスは井土の歩みとともに、引き続きできることを模索していきます。

※以上、クレジットのない写真は、撮影:濱田直樹(KUNK)

《みんなの橋(テンポラリー)》の再制作

また、今年も宮城野区岡田新浜地区で。昨年度制作した《みんなの橋(テンポラリー)》を再制作しました。
新浜町内会が主催し、8月6日に行われた「貞山運河の渡し舟と新浜フットパス2023」にて、貞山運河を渡ることのできる舟橋として設置されました。

当日は100名を超える多くの人に参加していただき、貞山運河を越え、松林を抜けて海へ向かいました。
道中では、2018年に制作した《みんなの木道》を歩き、「八大龍王碑」や「愛林碑」などの、地域の歴史を伝える石碑をめぐります。

橋だけでなく、2019年に制作した《みんなの船》や、実際の馬で舟をひく試みなどたくさんのアクティビティが用意され、多くの人で賑わいました。

 

他にも、新浜では「新浜貞山運河小屋めぐり」や陶芸部の発足、読書会の開催など、地元のアーティストが密接に関わったプロジェクトが続々と生まれ、さまざまな化学反応が起こっています。
引き続き、そうした動向もお知らせしていきます。

※撮影:アートノード

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