【レポート】「みんなの船」が運河を渡った!2018年8月川俣正滞在
2018年09月28日
アートノードでは、フランスを拠点に国際的に活躍するアーティスト川俣正さんとともに、長期的なプロジェクト「仙台インプログレス」を展開しています。今年、川俣さんが取り組んだのは、貞山運河を渡る「みんなの船」の制作。約1週間をかけて完成した船の進水式、そして同時開催された「貞山運河の船遊びと新浜フットパス」の様子をお届けします。
【先にある可能性を探る】
長期プロジェクトの第1弾は、「津波で橋が流されて困っている」という新浜地区住民の方々の声を受け、貞山運河を渡る橋の機能を持つ作品として構想された「みんなの橋プロジェクト」。今年、そのプロセスのひとつとして、川俣さんとともにフランスから来仙した学生や在仙の若者たちが「みんなの船」を制作しました。
8月4日には、「貞山運河の船遊びと新浜フットパス2018」(主催:新浜町内会・貞山運河研究所)に合流。完成した船の進水式を行い、スタッフを含め約80名が集い賑わいました。式ではくす玉割りに始まり、御神酒や塩で安全を祈願。新浜町内会の方々の「よいしょ、よいしょ」という威勢の良い掛け声とともに、黒い船が水の上に浮かぶと、見守っていた参加者から拍手が起こりました。
今回制作した船は、昭和40年代まで地域で活用されていた「馬船(うまぶね)」から構想されており、対岸へ張ったロープを引き寄せることで前進します。当日はほかにも、井土浜の元住民の方がつくった木造の馬船や、閖上地区で使われていた手漕ぎの和船「さぐば」も参加しました。
「運河はまちをつなげる印象がある。船に乗って水面に近い視点で移動するのは、とてもおもしろい経験」と川俣さん。来年は、貞山運河から海までの道のりに木道をつくることを検討しているのだとか。「橋をつくって終わりではなく、その先にある可能性を探りたい。木道を検討しているあたりには、地元の漁師さんたちの守り神であった『八大龍王碑』と、65年前に海岸林の植樹完成を記念し建立された『愛林碑』のふたつの碑がある。人々が歴史遺産を訪ね、生態系の観察ができる場所になれば」と今後の構想を語りました。
【橋と運河がお互いを生かしあう、世界にここだけしかないような場所】
午前に行われたフットパスののち、参加者は「新浜みんなの家」へ参集し、新浜地区のみなさんとともに活動の感想や今後の展望などを話し合いました。今回、川俣さんに同行したフランス人建築家のオリビエ・ブデュさんは、滞在中にまとめたさまざまなアイデアを発表しました。
これまで、利用者が自主的に使い道を定義できるような建築物や彫刻作品を制作してきたオリビエさん。遊び心あふれるドローイングを紹介しながら「完成した船で運河を行き来できるように、船着場の機能を兼ねた『あずまや』のようなスポットをつくるのはどうだろう」と提案。地域の方々からは「橋と運河がお互いを生かしあう、世界にここだけしかないようなものがつくれたら」という意見も。「仙台インプログレス」を通して、人と自然とアートが織りなす新たな時間が始まっています。
翌日、メディアテークを会場に「アートノード・ミーティング05」を開催。今回の活動について川俣さんが報告しました。
川俣 正(かわまた・ただし)
1953年北海道生まれ。1982年第40回ヴェネツィア・ビエンナーレ、1987年ドクメンタ8ほか出品多数。現在パリ国立高等芸術学院教授。準備中、進行中などの意味を指す「ワーク・イン・プログレス」と呼ばれるプロジェクトを組み、都市空間でサイトスペシフィックなインスタレーションの制作をおこなってきた。
http://www.tadashikawamata.com/
写真:嵯峨倫寛
※この記事は、アートノード・ジャーナル4号に掲載した記事を、ウェブページのために再構成したものです。