【レポート】仙台インプログレス 「みんなの木道」完成!
2020年02月19日 (更新:2020年2月19日)
アートノードではフランスを拠点に活動するアーティスト・川俣正さんと「仙台インプログレス」という長期的なプロジェクトを2017年より進めています。
昨年は貞山運河を渡る「みんなの船」を制作、今年は海側に広がる防災林へと続く道に木道を設置しました。
7月27日に開催された『貞山運河の渡し舟と新浜フットパス2019 part1』(新浜町内会主催)では、船が運河を渡り、新たに完成した木道もお披露目となりました。
■2つの石碑を文化資源として捉え直す
「津波で橋が壊されてしまって困っている」という新浜地区住民の方々の声から始まった「みんなの橋プロジェクト」。
完成する作品が震災前のように貞山運河を渡る橋として機能することを目指しています。
その過程で、昨年は貞山運河を渡る「みんなの船」を完成させました。
今年は、震災後、新たに松が植えられた海側のエリアに、川俣さんと在仙の若手アーティストや京都の学生が「みんなの木道」を制作しました。
制作に一週間ほどかかったという木道は全長約120m。
一部はベンチにもなる高さに設えられており、目前には150年前に建立された海難防止・海上安全を祈願する『八大龍王碑』がそびえ立ちます。
そこから海側へ松の植林地帯を100mほど進むと、新浜地区における昭和の植林事業を伝える『愛林碑』も見ることができます。
当時から新浜地区の方々が海とともに生活し、自分たちの手で松を植え潮風や飢饉から地域を守っていたことがうかがえ、石碑がこの土地の暮らしぶりを伝える重要な歴史的遺産であることを学びました。
「みんなの木道」は海と私たちを繋ぐだけでなく、新浜地区が紡いできた歴史と、現代に生きる人々を結びつける重要な役割を担っているのかもしれません。
この日の「新浜フットパス」では「みんなの船」で運河を渡ったほか、NPO法人広瀬川ボートくらぶの協力によるEボートの乗船体験も。
参加者は水の感触を上手く掴みながらパドルを漕ぎ、運河に沿って水面を移動しました。途中には、ハゼ釣りをする人やサイクリングロードを自転車で走る人も見受けられました。
イベントに参加した女性は「ゆったりとした心地のいい時間でした。木道ももっと長く、海へと続いたらいいですね」と笑顔を浮かべていました。
「みんなの橋」が完成し、この木道で海へも行けるようになれば、きっとさらに貞山運河でのアクティビティは充実し、人々が貞山運河一帯で楽しめるはずです。
■貞山運河で芸術文化を肌で感じられるように
川俣さんの最新作が設置されているフランス・ナント市は、都市計画に文化政策を積極的に取り入れている街です。
毎年開催されているアートプロジェクト『Le Voyage à Nantes』は、歴史的街並みと現代アート作品を、経済的観光資源とするために始まりました。
「みんなの橋」が完成し国内だけでなく海外からも様々な人が訪れることになれば、新浜地区がより大きな盛り上がりを見せることが想像できます。
川俣さんは今後の展望として「海とまちを日常的に繋げるには貞山運河がキーワードになる。この歴史的遺産をさらに活性化していくために船つき場なども制作したい」と語ります。
少しずつ育つ黒松の海岸防災林や広い海、大きな浜辺といった見慣れたはずの景色に「みんなの木道」が設置されたことで、ひとりひとりが新たな価値を発見する一日でした。
この場所に賑わいが訪れるのも、そう遠くない未来かもしれません。
川俣 正(かわまた・ただし)
1953年北海道生まれ。1982年第40回ヴェネツィア・ビエンナーレ、1987年ドクメンタ8ほか出品多数。現在パリ国立高等芸術学院教授。
準備中、進行中などの意味を指す「ワーク・イン・プログレス」と呼ばれるプロジェクトを組み、都市空間でサイトスペシフィックなインスタレーションの制作をおこなってきた。
http://www.tadashikawamata.com/
写真:渡邊博一
※この記事は、アートノード・ジャーナル6号に掲載した記事を、ウェブページのために再構成したものです。