【レポート】仙台インプログレス 人々が集う広場が生まれる
2024年11月05日
アートノードではフランスを拠点に活動するアーティスト・川俣正さんと、長期的なアートプロジェクト「仙台インプログレス」を2017年より進めています。
これまで、仙台市宮城野区岡田新浜地区において《みんなの木道》、《新浜タワー》などを制作、2023年度に初めて若林区井土地区で制作を行い《井土浜パーゴラ》《テーブル》《ベンチ》を制作しました。2024年度は、新浜地区での《みんなの橋(テンポラリー)》再制作のほか、普段より新浜地区で活動をしているアーティストなどの活動者と意見交換を行いました。
次に、井土地区のパーゴラのある場所を広場として、地域住民や訪れた人々が過ごしやすい場所としていくことを目指し、《井土浜テラス》《井土の井戸》を作成しました。また、8月8日(木)には、井土地区や新浜地区の関係者を招いた交流会、8月10日(土)には、公開会議としてアートノード・ミーティング12を実施し、今後の展望を話し合いました。
井土地区に生まれた広場での交流会 撮影:福原 悠介
新浜地区での活動
仙台インプログレスが継続的に活動を行っている新浜地区では、8月3日(土)に行われた「貞山運河の渡し舟と新浜フットパス2024」(主催:新浜町内会/Temporary Commons 実行委員会)にあわせて、《みんなの橋(テンポラリー)》(2022年)を再制作するとともに、《みんなの船》(2019年)の運用を行いました。夏の暑い日差しのなかではありましたが、水分補給をしながら貞山運河を渡り、海までの道のりを歩きました。
イベント後に川俣さんらは、新浜で実施されている「貞山運河小屋めぐり」の参加メンバーと、新浜での活動について意見を交わしました。2021年より始まった「貞山運河小屋めぐり」には、地元のアーティストたちも関わって作品を制作したり、自身の関心によって畑や陶芸などを始めたりするなど派生的な展開もみられます。こうした状況や震災後13年を経て、地域の状況も変化してきていることから、地域の歩調にあわせて進んできた仙台インプログレスにおいても、今後はより「アート」であることを主張していきたいという川俣さんの意向がありました。あわせて、未だ実現には至っていない《みんなの橋》へ向けた想いも語られました。
フットパスや意見交換の様子
井土地区での活動
仙台市沿岸部の震災からの復興をめぐる状況は、各地域により大きく異なります。井土地区は、震災後10年を経て、大きな動きが始まった地区です。その詳細は、井土町内会と「井土まちづくり推進委員会」が発信・発行している「井土まちづくり情報局」、「井土まちづくりレポート」にて知ることができます。
そんな新たなまちづくりの動きが生まれている井土地区で2年目となる活動が行われました。
《井土浜パーゴラ》のある場所は、もともとは住宅が建っていた場所であり、震災後は、細かいがれきが砂利に混じっている土地でしたが、パーゴラ制作にあわせて芝を敷き、使用しやすい状態に整備を進めていました。ただ、それだけではやはり人々が寄り付きにくいということで、地元の方々と話し合いを重ねました。そして、《井土浜パーゴラ》のある場所を、より地域内外の人々が活用できるように、特に子どもたちが遊ぶことができるような場所にするという方針が決まりました。
同時に川俣さんは、いくつかプランを提示し、そのなかで「テラス」と「井戸」の2案について進めていくことになりました。「テラス」については、人々が休憩で利用できることはもちろん、ちょっとしたステージとしても利用できるように、また「井戸」については、もともと井土地区では井戸水を利用していた住宅も多く、パーゴラのある場所にかつてあった住宅でも井戸水を利用していたことから、子どもの遊び場、植物・菜園の水やり用として、それを復活させることにしました。
《井土浜テラス》の初期イメージ ©︎KAWMATA Tadashi
制作の様子
8月4日から9日にかけて、制作に取り組みました。
制作の合間に、毎月、井土集会所で開催されている「井土かたらいスペース」に集まる方々に、今回の制作について説明をしました。
作品
《井土浜テラス》はパーゴラをはさんで2箇所に設置されました。道路側には、花壇を備えたテラス。反対の海側にはステージにもなりそうな大きなテラスです。《井土の井戸》は海側のテラスに併設されており、ポンプで冷たい水を汲み上げることができます。小屋のような形状は、強い風の通り道である井土地区で雨風から井戸を防ぐ役割があります。
交流会
8月8日に、川俣さんや制作チームの呼びかけで、井土町内会、井土まちづくり推進委員会、新浜町内会などの関係者とともに交流会を行いました。これまでになく、多くの方々に参加していただき、賑やかで楽しいひとときとなりました。また、日が沈んでから、「星空観望会」(井土町内会、井土まちづくり推進委員会)が実施されたため、多くの子どもたちが集まりテラスなどを利用しました。地域内外の人々に、この場所を知ってもらい立ち寄ってもらう、そんな人々が集う広場への第一歩となりました。
アートノード・ミーティング12
8月10日、せんだいメディアテークで自由参加型公開会議「アートノード・ミーティング12」としてプロジェクトの報告と意見交換を行いました。コロナ禍により2020年度より開催をしていなかったため、4年ぶりの開催となりました。
会議には、新浜地区、井土地区のみならず、プロジェクトに関心のある方々に多く参加していただき、急遽参加者を巻き込んで今後の作品プランのブレストが始まるなど、思いがけない展開もありました。思ったような作品制作に向かうことが難しいなかでこれまでプロジェクトを継続してきたことを振り返り、地元の動きに歩調はあわせつつも、「アート」であることをこれからもっと主張し、作品や状況をつくっていきたいと改めて話し、その考えを参加者らと共有しました。参加者からも多くの意見をもらい、次年度以降の展開が楽しみになる熱のある会議となりました。
仙台インプログレスで制作した作品の一部は、常時鑑賞、利用ができますので、ぜひ足を運んでいただければと思います。
また、これまでの仙台インプログレスの歩みは、次の特設サイトからご覧いただけます。
KAWAMATA TADASHI SENDAI IN PROGRESS (日英)
撮影:渡邉 博一(制作の様子〜作品)、アートノード