【レポート】展覧会レコメン堂関連イベント報告 前編/レコメンバトル
2020年01月31日 (更新:2020年1月31日)
開催日時:2019年12月15日
「レコメン堂」では、絵、文章、写真、小説、音楽、うた、踊り、記録、場づくり、呼び名のないような行為なども含めた“表現のようなもの“たちを、一般応募で集めて展示しています。
この展覧会は表現を生み出したつくり手本人が出品をするのではなく、その表現をまなざして「これはすごい!」と見出す“他薦者(=レコメンバー)“が応募して出品するという、ちょっと変わった仕組みをとっています。
展覧会に参加するにあたり、レコメンバーたちは推薦する“表現のようなもの“について自分がどう思っているかを整理したり、ときにはつくり手に会って改めて背景を聞き直したりしながら、個々人でリサーチを行ってきました。
関連企画の「レコメンバトル」は、レコメンバーたちが自分のイチオシの“表現のようなもの“をプレゼンするイベントです。“表現のようなもの“の良し悪しを問う場ではなく、その魅力を言葉で伝えるための、チャレンジの場。普段は表現のつくり手を支える裏方役に徹するレコメンバーたちのハレの舞台でもあります。
◯◯バトルというと、「ビブリオバトル」や「シネバトル」といった、おすすめの書籍や映画をプレゼンして競う企画が仙台ではお馴染みです。レコメンバトルはそれらの方法を踏襲し、レコメンバーがまずプレゼンをし、その後に審査員やオーディエンスたちからの質疑応答タイムをとります。(表現のつくり手さんとタッグを組んでプレゼンするのも勿論OK)
今回は企画者の“やわらかな土から“メンバーに加え、イラストレーターとして活躍する佐藤ジュンコさんにゲスト審査員としてご参加いただきました。
特にナイスなプレゼンをしたレコメンバーには、ジュンコさん特製の「こけフィー(こけしトロフィー)」を授与!
最初のプレゼンはお試しということで、“やわらかな土から“メンバーの佐藤正実さんから「舟要の書」を、柴崎由美子さんから「シャチョーの音楽」を、写真や映像を交えてレコメンド。紹介する表現がどんなものか、それを生み出した人がどんな人で、なぜ自分がその表現について惹かれ、他の人にも見せたいと思ったのか……自分の言葉で語る感触を掴んでもらい、レコメンバトルスタートです。
◆まみさん/「兄と妹(れんとあいみの絵とえ)」
※展示会場の作品
3番目に発表したまみさんは、この日のために東京からご来仙!
6歳のれん君と、もうすぐ4歳になるあいみちゃんの、ふたりに芽生えはじめている表現についてをレコメンド。
「目紛しく変化するこどもたちの表現をどう見ていくか日々迷いつつも、忘れないように丁寧に受け止めていきたい」と語るまみさんの笑顔が印象的でした。
「この絵はどこがお気に入り?」との質問に、れん君とあいみちゃん兄妹はちょっと緊張しながらも、頑張ってお客さんの前でコメントをしてくれました。
◆山路智恵子さん/「おっくんのあ・り・が・と・うの歌」
音楽ワークショップのファシリテーターをしている山路さんは、おっくんの「あ・り・が・と・うの歌」を推薦しています。
おっくんの歌は展覧会会場では記録映像で公開していますが、おっくんの生歌を皆さんにぜひ聞いてもらいたい!という山路さんの思いから、今回はパフォーマーのおっくんにも来てもらい、レコメンバトルに参加。
「おっくんは歌声も素敵なのですが、喋り声も素敵なので、お声を聞いてから歌を聴けたらなと思います。」
山路さんによるインタビューを挟んだ後に披露された「あ・り・が・と・うの歌」ギター弾き語りは、会場を包むように穏やかに響いていました。
◆本多紀子さん/「本多遼の毎日の創作」
※展示会場の作品
本多紀子さんは、息子の遼くんの絵をレコメンド。会場では遼くんの作品ファイルを回し見ながら、遼くんが絵を描き始めるに至るまでのきっかけや作品の変遷についてを、紀子さんのお話で細やかにお聞きすることができました。
「言葉を喋らなくても、絵を描いていることで遼の周りに学校クラスメイトや様々な人が寄ってくる。」
紀子さんの言葉には、表現を続ける遼くんと傍らでそれを見守る紀子さんの二人三脚から、関係性の輪がどんどん広がっている様子が感じられました。
◆三浦忠士さん/「荒浜の貴田喜一さんの畑」
絵や歌などの表現の紹介が続き、次なるレコメンドはなんと“畑”!
仙台の沿岸部で活動する三浦さんは今回、ふたつの“表現のようなもの“を展覧会へ推薦しています。
最初のプレゼンは「荒浜の貴田喜一さんの畑」。
効率的かつ美しく手入れされている貴田さんの畑は、建築業に携わってきた仕事人としての側面と自然豊かな故郷を愛する感情とが一つになってできている表現なのではと、その魅力を熱に語ります。
◆三浦忠士さん/「Team Sendai 『あれから○年スペシャル』」
三浦さんによるもうひとつのレコメンド、仙台市職員たちから見た震災体験を伝える取り組み「あれから○年スペシャル」のプレゼンでは、Team Sendaiのリーダーの由美さんも急遽登場。
区長が綴った震災体験についてを、今回は特別に、由美さんに朗読してもらいました。審査員のジュンコさんからは「朗読を直接聞くことができてよかった。ジーンと沁みました」とのコメントが。
三浦さんは現在Team Sendaiのメンバーとしても活動しているとのことで、表現のつくり手として、また表現の受け手として、様々な角度からの切実な声を聞くことができました。
◆増田芳雄さん/「かえりびな」
※展示会場の作品
増田さんも、推薦する表現の活動自体に深く関わっているレコメンバーのおひとりです。
震災の行方不明者とおよそ同数の2600 体の「かえりびな」を作って展示する試みは、箱根の茂村ひとみさんが中心となって今も続けられています。
行方知れずになった方々がいること、今も帰りを待ってる人々がいること、そのことに思いを寄せ続けることは、茂村さんだけでなく増田さん自身の中核になっていると感じられました。
「これからも続けていきたいと思ってるんですけども、メディアテークの1階で展示できたらと夢見ています。」
増田さんの意気込みの後には、「ニュースを見て知っていたが、今日ここで話を聞いて改めて、胸が熱くなった」とのオーディエンスから感想もありました。
◆せこ三平さん/「句集『花筏』より 父の人生を追想する二つの句」
※展示会場の作品
せこ三平さんによるレコメンドは、2019年に亡くなられた父・ブンエイさんが生前に詠んでいた俳句です。
三平さんは今回のレコメンバトルにあたり、お父様の死からこの展覧会に参加するまでに至る自身の思いを、文章にしたためて整理して参加しました。
何を意図しようともしなくてもただ生きて死ぬことは表現かもしれないと看取りの日々を振り返った上で、ブンエイさんの人生、彼が眼差しを向けていたものたちを汲み取ることができる二つの句を紹介したいと語り、最後は父への弔いと感謝の言葉でプレゼンを締めくくりました。
◆飛び入り参加部門
今回のレコメンバトルは展覧会に出品していない方でもプレゼン大歓迎!ということで、2名の方が飛び入りでご参加。
1人目のNさんからは、福祉施設に通所している方の“表現のようなもの“(スプーンシリーズ)を、2人目の高橋さんからは、一家の日常で育まれる“表現のようなもの“(石シリーズ)を、それぞれご紹介いただきました。
質疑応答タイムでは「コレクションを額に入れて展示会や冊子を作ってみたら面白そう」「俺も石好きでさ~!」との感想も。
これは何をしてるんだろう?もしかすると誰かの迷惑に繋がってるのかもしれない?と一見思えるような行為たちも、“表現“と呼んで他の人と共有することで違う視点を得られるのだと実感できる時間となりました。
※後編のレポートで、総評と結果発表に続きます!