【レポート】第16回やわつちサロン「『テロワージュ東北』ってなあに? 〜ワインと牡蠣と福祉を考える〜」
2019年06月04日 (更新:2019年6月4日)
日時:2019年3月27日(水)19:00~21:00
月に一度TRACにて開催しているおしゃべりの場、やわつちサロン。
3月にゲストにお迎えしたのは、仙台秋保醸造所(秋保ワイナリー)の毛利親房さん。
エイブル・アート・ジャパンの柴崎由美子さんを聞き手に、震災後に創設した秋保ワイナリーについてや、現在進行中の「テロワージュ東北」のご活動についてお話ししていただきました。

ひと・地域・文化・産業をつなぎ、はぐくむワイナリー
はじめにお見せいただいたのは、毛利さんの描いた「秋保ワイナリー」のMAPスケッチ。
中心にあるワイナリーの建物からは周囲のぶどう畑を一面に見渡すことができ、
「収穫の季節にはカフェスペースから一段といい風景が見られるんですよ」と毛利さん。
秋保を拠点に根付いてきたこちらのワイナリー、実は活動最初期は、被災した沿岸部でぶどうを植えていたのだそう。

現在は仙台秋保醸造所の代表をなさっている毛利さんですが、もともとは建築家。
設計事務所にお勤めの頃は仙台や東北の様々な施設を手がけてこられており、震災前は女川や双葉町で施設設計に携わったご経験も。
震災後、自分たちが設計した施設の被災調査や救援物資の運搬で沿岸部を訪れた毛利さんは、それまでに関わりのなかった現地の農家さんや漁師さんと出会い、交流を深めるうちに、地域の復興アイデアを考えるようになったそう。
そのプランが現在のワイナリーのプロジェクトにつながっている、と語っていました。
「ワインって、農業、商業、観光、文化とうまく融和してるんですよね。
実は私はお酒が弱いんですけど、人と人、地域と地域、いろんなものをつないで引き立てていく力がワインにはあるんです。
実は宮城にも震災前からワイナリーがあったんですけど、大きく被災してしまって。知り合った漁師さんからも、漁を再開したけど売り手がないんだよ、という話を聞いたりして。
震災で途絶えてしまった宮城のワイン産業を復活させよう、ワインで宮城の食を応援していこうと、ワインでの復興計画を提案したんです」

テロワージュ東北
さて、料理やお酒好きの人ならよく聞くマリアージュ(香りや味を高め合う料理とワインの組み合わせ、相性)ですが、毛利さんはこのマリアージュの一歩先を行く、「テロワージュ(テロワール+マリアージュの造語)」をコンセプトに打ち出しています。
テロワールは仏語で「土地」。ワイン業界においてはぶどう生育地の気候や風土といった自然環境を指す言葉です。
ここに、生産者や地元の人々の営みを大きく関わらせていくのが、テロワージュのポイント。
「日本を訪れた外国人旅行客のアンケートを調べてみると、東北への旅行は総じて満足度が高いんですよね。
食べ物が美味しい、人が優しい、景色がいい、適度に田舎なので日本らしさや文化を身近に感じられる。
その東北の魅力をちゃんと伝えていこう、食・人・風景・文化を現地で体験してもらおうってツーリズムが『テロワージュ東北』なんです」
産地に行き、地域の風土や地元の人々との出会いを楽しみながら、食を味わう。
この旅の案内役(コンシェルジュ)を留学生に担ってもらうことで、海外からの旅行者と地元の生産者との距離がぐっと近づいて特別な旅になるのではと、嬉しそうに語っている毛利さんの姿が印象的でした。
福祉や文化とのマリアージュ
秋保ワイナリーでは近年、地元の福祉事業所と一緒にぶどうの収穫や栽培をするなど、関わりがどんどん深まっているそうで、障害のある人も含めた地元の人々との協働についてもお聞きすることができました。
「社交の集まりに必ずワインがあるように、ワインには誰かと一緒に楽しさを分かち合う背景があるって、
とあるボランティアさんから聞いたことがあるんですよね。
福祉や文化の領域でも、様々な分野や人とつながって新しい価値や連携を見出していくとき、
それぞれのよさを引き立たせていく毛利さんのテロワージュのご活動から学ぶ部分があるのでは?」
と、聞き手の柴崎さん。
様々な職種の人々が集まるやわつちサロンでも、秋保ワイナリーのワインを片手に、ちょっとずつ打ち解けておしゃべりを楽しむ様子が見られました。

毛利さんの仙台秋保醸造所と柴崎さんのエイブル・アート・ジャパンでは、ワインラベルでのコラボ商品を目下製作中とのこと。
2019年初夏開催の第7回仙台国際音楽コンクールで特製ラベルのワインがお目見えしました。
ワイナリー、デザイナー、アーティスト、各分野をつなげるサポーターたちによって編み出されたマリアージュ(?)、またひとつ誕生です!

報告:佐竹真紀子(一般社団法人NOOK)



