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【レポート】第14回やわつちサロン「アートによる“継承”を考える」

2019年03月18日 (更新:2019年3月18日)

日時:2019年1月23日(水)19:00〜21:00

 

 

月に一度、TRACにて開催しているおしゃべりの場「やわつちサロン」。

1月は水谷仁美さん(せんだいメディアテーク、名古屋芸術大学 リベラルアーツ総合研究所 研究員)をゲストにお呼びしました。

現在はメディアテーク「3がつ11にちをわすれないためにセンター」で働いていらっしゃる水谷さんですが、戦争や災害といった出来事にまつわる記憶の記録・表現を試みる「カウンターモニュメント」の研究を元々ご専門にしています。今回のサロンでは、NOOKの瀬尾夏美さんを聞き手に、出来事の記憶を記録・表現いくときにはどんな「継承のかたち」があるかを考えてみる会を開きました。

 

まずは水谷さんから、ヨーロッパで「記念碑」についてを思考するアーティストや研究者の取り組み、記憶とアートの関わりについてレクチャーしていただきました。記念碑は誰のためのもの?/表現不可能なものをどのように表象する?/想起を促すために必要なのは芸術や記念碑なの?

戦後ドイツでの事例を見ながら、そもそもの疑問に立ち返ってみると、記念碑の役割は人びとが関心を寄せるためのトリガーになること、「包括的な当事者」を増やしていくことなのでは?と思考が整理されていきます。

 

 

モニュメントの役割についてキーワードが出たところで、話題は小森はるか+瀬尾夏美の新作『二重のまち/交代地のうたを編む』に移りました。

震災後に陸前高田へ通い続ける小森さんと瀬尾さん。2018年は10代~20代の若者(遠くの土地からやってきた“旅人”)と高田へ赴き、旅人がとまちの人と出会い、対話し、自らの身体で発話をはじめていく「場」のコーディネートをしていました。

若い旅人たちの活動の様子を同じく現地で見守っていた水谷さんは、旅人たちが自分たちのフィールドに帰ったあと、陸前高田で見聞きしたことや体験を自分の言葉でどうやって伝えているのか、気になっているご様子。「プロジェクトの後に開かれる対話の場で、人が集ってまたあらたな対話が生まれることで、包括的な当事者が誘発されていくんじゃないかな」と、高田での滞在を振り返りながら語っていました。

 

 

「モニュメント」や「場」の継承のかたちについて掘り下げが続いたあとは、聞き手の瀬尾さんの直近のご活動へ。

2月に書籍「あわいゆくころ 陸前高田、震災後を生きる」を出版した瀬尾さん。継承の下準備として、まずは橋渡しの媒介になろうとしたときに、受け取ってほしい人はどこの誰かなのかを改めて考え、今回「本」というかたちを選んだのだと話していました。

 

サロンの終わりには、参加者のみなさんとの間でも、さまざまな問いが生まれました。

たとえば今現在起き続けている事象の震災を伝えていくとき、届けようとするところが60年後なのか、もしくは同時代的に今なのかで、抽象度は距離によって選ばれていくもの。とはいえ、時代をみながら機能するかたちや抽象度を絶えず考えていくにしても、より遠い距離や後世に向けてつくるものと同時に、いま同時代的に取り組むべき記録も多く存在するはず……アートが時代のそのときどきに、何に向けてどんな形としてありうるの?

アートといっても、映像による証言やデジタルアーカイブへ伝承が移行していく中で、アートのポジションが変わっている?

海外と日本とでは背景も考え方も違うし、伝えていく出来事の性質が異なる場合(戦争と、津波による被災、原発事故など)では、継承のかたちを比較し得ない部分もあるのでは?

出来事の継承を一足飛びで目指すのではなく、伝える/受け取ることにまつわる考えを言葉にし直す時間も大切だなぁと改めて実感する機会となりました。

 

報告:佐竹真紀子(一般社団法人NOOK)

 

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