【レポート】中動態の映像学がはじまるまで
2022年05月19日
東日本大震災から11年と2日が経った3月13日(金)。
book cafe 火星の庭で「中動態の映像学がはじまるまで」トークが行われました。
登壇者は、映像学者の青山太郎氏、映像編集者の鈴尾啓太氏、「3がつ11にちをわすれないためにセンター」元スタッフの北野央氏。
それぞれが「震災の記録」に関わってきた方々です。
このトークは青山太郎著『中動態の映像学』(堀之内出版)の出版記念としておこなわれました。
これまでにないアプローチで映像メディア理論をひらく本書では、東日本大震災を機に東北で作品を制作した映像作家らが登場します。
その三組ー酒井耕・濱口竜介、鈴尾啓太、小森はるかが映像制作をする上で、せんだいメディアテークにある「3がつ11にちをわすれないためにセンター(わすれン!)」は重要な拠点となりました。
本書ではわすれン!が果たした役割についても多くの紙幅が割かれています。
本トークのタイトル「中動態の映像学がはじまるまで」は、青山さんによって名付けられました。
トークの内容もタイトルをなぞるように、ゲストの方々が自身の「出発点」について語ることから始まりました。
11年経ったからこそ話せること見えることがあり、また、11年経ってもわからないこと、終わらないこともあると感じることができるものでした。
その問いを会場にいる人達と共有し、響き合っているような時間でした。
鈴尾さん、北野さん両氏とも『中動態の映像学』に登場しています。
五章からなる長大な論考の起源を探るように、うねうねと蛇行しときに交わり、ときに黙考しながら予定時間を超えて対話が重ねられました。
質疑応答では、震災の記憶が薄れていくことについてどう思うか、と客席から発言がありました。
それについてはぜひメディアテークのyoutubeチャンネルをご覧いただければと思います。
中動態とは表現の現場だけでなく、わたしたちが生きる日常にも接続しうる方法だと感じました。
青山さんは後日SNSで、
「東日本大震災発災当時の活動を振り返りながら、現在こそ考える問題なるものを見つめ直す機会になったのではないかと思います。」と語っています。
青山さんが初めて「わすれン!」を訪れてから9年の時をかけて執筆された『中動態の映像学』。
この本と一緒にこのトークをお聞きいただければより理解が深まると思います。
鈴尾さんは自身が制作した「沿岸部の風景」について、「完成をめざすものではなかった」、「震災後に東北に来たくても来れずにいる、東京の人たちに向けて作品を作っていた」と語りました。
鈴尾さんの話を聞きながら、その姿勢そのものが「中動態の映像学」を現しているのではないかと感じました。
最後にトークの後、北野さんが「小森はるかさん達が震災第一世代だとしたら、今年の「星空と路」で初上映された佐藤そのみ監督は第二世代といえて、震災時に子どもだった世代が大きくなり、表現する側に登場してきたのが11年目の特徴だと思います。
これから現れる表現者をサポートしていくこと、それがわたし達の大事な役割の一つだと思っています」と話されていたのが印象に残りました。
レポート:前野 久美子(book cafe 火星の庭)
●トークの映像は下記からご覧いただけます
中動態の映像学がはじまるまで
出演 :青山 太郎 (映像学者、デザイナー)
鈴尾 啓太(映像編集者)
北野 央 (公益財団法人仙台市市民文化事業団)
開催日:2022年3月13日(日)
会場 :book cafe 火星の庭
企画運営:前野 久美子(book cafe 火星の庭)