【展示レポート】こどもアートひろば 展覧会 アッペトッペ=オガル・カタカナシ記念公園(アーティスト KOSUGE1-16)
2017年04月04日 (更新:2019年2月1日)
俯瞰写真 撮影:酒井耕
「カタカナ詩」で知られる童謡詩人スズキヘキと、こけしを全国にはじめて紹介した郷土研究家の天江富弥。
「みやぎの子どもにみやぎのうたを」と考えた二人が大正時代に生み出した全国初の童謡専門誌「おてんとさん」とその活動は、短い期間ながら仙台の児童文化に大きな影響を与え、その遺伝子は今も受け継がれています。
KOSUGE1-16は当 時の活動を丹念にリサーチしたうえで現代の感覚でなぞり、ヘキのカタカナ詩をモチーフにした遊具としても楽しめるアート作品(カタカナシ記念公園)や、ハナカタマサキ氏とワークショップ参加者が協働制作した新作童謡やアニメーション、参加アーティストによる作品・活動紹介などを展示しました。
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KOSUGE1-16は車田智志乃、土谷享のユニットとして、これまで国内外で精力的にアートプロジェクトを実施し、展示発表を行ってきました。近年のプロジェクトでは、実施する土地に由来する創造の場をつくった人物の活動や世界観をテーマに、こどもの遊び場を創出するインスタレーションシリーズ「Playmakers」を展開しています。
本展は、仙台版「Playmakers」として制作されたものです。かつての創造の場を大正時代の仙台の児童文化運動に見出し、郷土研究家の天江富弥と童謡詩人のスズキヘキがあらわした世界観をテーマに、彼らの活動を、現代の作家独自の感覚で捉えなおし表現したものです。富弥やヘキが多くの芸術家とともに仙台の文化を醸成していったことになぞらえ、KOSUGE1-16もまた市内外の複数のアーティストを交えた制作に取り組みました。
今年6月、富弥とヘキの活動についてのリサーチを開始、11月に仙台市荒井地区にアトリエを構え、荒井に暮らす人々や音楽家やアーティストらとともに作品の制作がすすめられました。展覧会は、ヘキならではのカタカナによる詩をモチーフにした作品群をメインに構成されていますが、新作童謡やアニメーション作品、床一面を覆うカーペットなども荒井での協働制作の成果となっています。また、会期中に開催される関連イベントは「会屋」と呼ばれるほどに多くの「会」を作り出した富弥にちなんで企画されました。
本展が、大正時代の仙台において子どもの個性に目を向け、児童文化運動の中心となった富弥とヘキの機知に富んだ活動に思いを馳せていただく機会となっていれば幸いです。 最後に本展開催にあたり、ご協力を賜りました関係者の皆様に厚く御礼申し上げます。
カタカナシ記念公園 展示風景
本展示のテーマとなったスズキヘキと天江富弥の木像。紐を引くことで仕掛けが発動。ヘキは口からカタカナシの木片を出し、それを天江がへらで受け止める
1階 階段脇。右側の壁はハナカタマサキの制作したムービーとイラストを展示。左の壁はちゃいるどらんど荒井保育園でのワークショップの記録展示。
ちゃいるどらんど荒井保育園では、こどもたちが布に絵を描き、その布を使って会場のカーペットを制作した(制作:イトウユウコ)
【1階エントランス】 仙台文学館所蔵のパネルによる「おてんとさん」の活動紹介
このコーナーでは仙台文学館が保管する貴重な資料から抜粋し、大正時代の仙台で郷土研究家の天江富弥と童謡詩人のスズキヘキが生みだした全国初の童謡専門誌『おてんとさん』とその活動を紹介しました。
展示パネルでは、天江・ヘキの生い立ちと2人の出会い、大正10年の『おてんとさん』の誕生から、その流れを引きついで現在も活動を続ける「おてんとさんの会」を紹介。
雑誌『おとぎの世界』を通して知り合って意気投合した二人のストーリーとその熱意、時代の息吹を感じていただければと思います。
[展示しているパネルは、平成17年1月に仙台文学館企画展「おてんとさんの世界~みやぎの子どもにみやぎのうたを」で展示したものを抜粋して紹介しています。]
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■影絵コーナー
影絵コーナーでは、「七つの子社」が上演していた影絵劇の一部を再現した装置を体験できるように展示しました。「七つの子社」は、スズキヘキの弟の鈴木幸四郎をはじめとする「おてんとさん社」の若手メンバーで結成されたグループでした。
影絵劇は、スズキヘキの兄弟たちが家で遊んでいた影絵遊びが発展してできたものです。童謡や童話を光と影の動きに声や音楽を加えて上演しました。
現在も「おてんとさんの会」が影絵劇の上演を続けています。
影絵所蔵:仙台文学館
2階。参加アーティスト、イベント企画者による展示ブース
公益財団法人 仙台観光国際協会 「外国絵本のおはなし会」
特定非営利活動法人都市デザインワークス 「プレジャーマーケット@カタカナシ記念公園」
こけしぼっこ 「~こけしが語る宮城の民話~ こけしぼっこのこけし劇」
磯崎道佳 「ホヤソファーとカウチタンコロリン」「ホヤちょうちんのお出迎え
タノタイガ「ワークショップ おがる彫」
磯崎道佳と一般参加者によるワークショップで制作された「ホヤちょうちん」 建物外の地下鉄通気口に設置。電車が通過すると膨らむ。
地下鉄東西線国際センター駅 遠景。2階左側にカタカナシ公園が見える。
※上写真 スタッフ撮影
ディオニュソス的アッペトッペ
土谷 享(KOSUGE1-16)
「童謡」や「児童文化」という言葉は天江富弥やスズキヘキが活動し始めた大正時代頃に使われ始めた比較的あたらしい言葉だという事を知った。それ以来、しっかりとした定義が定まらずに個々の解釈によって説明されてきた言葉だ。ある時は〝教育産業〞の中で、ある時は〝児童教育〞の中で、ある時は〝文化〞の中で使われる。しかし「童謡」を介して出会ったヘキや富弥らはそんなことはよそ目に、「子供の為」という詩作では無く、独自の詩を追求し、その結果がたまたま「童謡」と呼ばれた/呼んだ、だけだという印象を受ける。お金にするつもりは無く、教育に取り込まれるのは嫌いで、芸術家も嫌い。しかし、表現をする事、表現を分かち合う事は大好きで、童謡専門雑誌の創刊、ストリートライブ、大規模な講演会、自然科学と芸術を取り入れた林間学校など、アーティスト・イニシアティブによって多種多様な企画や場を仕掛けてしまう。いわゆるカギカッコ付きの「芸術家」を嫌った彼らの方こそ「モダニスト」であり「芸術的」であったと思う。
従来の形式に捕われない彼らの活動からは学ぶものが多くある。彼らが創刊した日本最初の童謡専門雑誌『おてんとさん』は東京を介在させずにインターローカルなネットワークを促進させた。スズキヘキは「原始童謡論」や「カタカナシ」により方言と音を大切にし、郷土研究家ともいわれる富弥は、東北各地に伝承されていた文化をユーモラスに再解釈し実践した。日本全国が標準化され始めた時代の中に居ながら、地域の価値に目を向け、新たな実践につなげた。およそ100年経つ現在においても、彼らの提起は有効である。
今回のプロジェクトでは当時の活動から幾つかを引用し、なぞらえたイベントを企画した。急ぎすぎたグローバルスタンダードの反動が世界中で吹き荒れる現在において、彼らの振る舞いから学ぶものは多い。地方の中のニッチと丁寧に対峙する事で、場がつくられ、仲間がつくられ、文化がつくられ、ネットワークがつくられていったのだろう。これはカタカナシ記念公園での多くの出会いから実感した事であり、その為のstudy だったと位置付けられるのではないか。そして12月26日に会期を終えて、この展覧会を開催した事が新たな出発点だった事に気が付いた。今回の沢山の出会いが、枝葉の様に仙台の大空から再びインターローカルに広がって行く事を今後に期待したい。
アートノード ジャーナル 1 号より(2017年2月13日 発行)
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アートノード ジャーナル 1 号には、本企画のレポートが掲載されています。
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こどもアートひろば 展覧会 アーティスト KOSUGE1-16
アッペトッペ=オガル・カタカナシ記念公園
http://artnode.smt.jp/katakanashi.html
企画制作 KOSUGE1-16(アーティストユニット)
参加アーティスト
磯崎道佳(いそざき みちよし)アーティスト
イトウユウコ(布物作家)
こけしぼっこ(人形劇グループ)
タノタイガ(美術家)
ハナカタマサキ(ミュージシャン/アニメ映像作家)
日 時:2016年12月15日(木)〜26日(月) ※会期中無休 10時〜19時(26日のみ17時終了)
会 場:地下鉄東西線 国際センター駅 2階青葉の風テラス
主 催:せんだいメディアテーク(公益財団法人 仙台市市民文化事業団)
助 成:「SOMPO アート・ファンド」(企業メセナ協議会 2021 Arts Fund)
協 力:青葉山コンソーシアム、荒井東町内会、一般社団法人荒井タウンマネジメント、一般社団法人ReRoots、絵本と木のおもちゃ 横田や、おてんとさんの会、株式会社東日本放送、café Mozart、協同組合仙台卸商センター、郷土酒亭元祖炉ばた、公益財団法人仙台観光国際協会、せんだい演劇工房10-BOX、せんだい3.11メモリアル交流館、仙台市、仙台市交通局、仙台文学館、ちゃいるどらんど荒井保育園、特定非営利活動法人都市デザインワークス、FACTORY-K株式会社、みやぎ子どもの文化研究所、もろやファームキッチン、渡邊愼也(地域メディア史研究家)、渡邊博一
写真撮影:表示のないものは全て 渡邊博一