ステートメント|貨幣を介さない交換経済は可能か?
2024年07月18日
2023年の夏が終わる頃、せんだいメディアテークのアートノードさんから「貨幣を介さない交換の仕組み」について一緒に考えませんか?と相談を受けた。
これは、私自身がこれまで、作品のテーマに「交換」を扱った経験があり、特殊な制約をつけた作品が海外の美術館に収蔵されるなど、制作にトリッキーな部分があることからお声がけいただいたと推測している。
また、ここ数年取り組んでいる社会貢献事業の運営の経験から、何か積極的な形で提案や実践ができそうな予感があり、加えて個人的にも、中学生の頃のとある原初的な交換経済に関して「あれはなんだったのか?」と気になるところがあり、これらの点から、参加させていただくことにした。
さて、そもそも貨幣ができる前の交換はどうやら「物々交換」ではなく、「貸し借り(とその記録)」にあるようで、この考え方を新貨幣論というらしい。物々交換では残らなかった太古の記録、つまり帳簿に着目し、貨幣制度導入以前の債務と債券を議論の中心に据える説であるようだ。
この話を頭の片隅にいれながら、実際に仙台に行き、意見交換をするうちに、「貸し借りを永久に続けることが可能ならば貨幣は不要」と結論するに至った。少なくとも精算の先送り(=postpone)が、実践の方法として明確となった。
現在、実践場所として取材・調査・実装を行なっているのは、こどもたちに飲食を無料などで提供している施設や取り組みと、商店街・アーケードなどにある一般的な飲食店である。加えて現金による精算を、交換経済の「外側」に設置することで、長期的な運営システムの実践を目指している。
貨幣を介さない交換経済の実践として「永続的な貸し借り」の具現を目標に、こどもたちが自分の意思でいつでもどこでもご飯を食べらる環境を整備しつつ、同時に飲食店の活性化を通じて、地域コミュニティの関わりを拡張し、さらにプロジェクト外部に対しても参加を促す仕組みを用意しながら、一連の循環が「どこで破綻するのか」を見定めることも含めて、すなわちアート作品とよんで実践してみる。
笹原晃平(アーティスト)