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『飯川雄大 デコレータークラブ』発行

2024年05月21日 (更新:2024年5月15日)

飯川雄大作品集『飯川雄大 デコレータークラブ』

一筋縄ではいかない作品を生み出すアーティスト、その思考、制作プロセスを探る、初の本格作品集!!

 

 

このたび、株式会社 赤々舎とせんだいメディアテークは、美術家・飯川雄大の初作品集『飯川雄大 デコレータークラブ』を刊行いたします。

飯川の「デコレータークラブ」シリーズ(擬態する蟹の名前に由来)は、親しみやすい作風を通じ、私たちが共有できない知覚や衝動、そして美術の制度的常識をめぐる鋭い問いを宿した表現で知られます。床に置かれ、誰かが持ち上げるのを待つかのような謎のスポーツバッグや、巨大さゆえ常に一部が何かに隠れて全貌を認識できない猫の彫刻、また展示壁だと思った構造物を手で押すと別の空間が現れるインスタレーションなどは、各地の美術館やアートプロジェクトで注目されています。

本書は、飯川が2007 年から手掛け続けてきた「デコレータークラブ」のほぼ全作を豊富な図版と飯川による書きおろしのテキストで紹介するほか、木村絵理子、イ・アルム、五十嵐太郎ら有識者の論考を和英併記で収録しています。また後半は、せんだいメディアテークと共に初の公共空間( 公園)での《ピンクの猫の小林さん》の展示を目指し、一旦断念に至った経緯を貴重な実践録として収録しています。

プロジェクトを断念したのはなぜか?一筋縄ではいかない作品をめぐって編まれた、飯川の活動を知るための必読書となるとともに、アートプロジェクトの在り方に再考を促す1 冊です。(全218 ページ!)

 

書籍情報

『飯川雄大 デコレータークラブ』
デザイン:高見清史(view from above)
編集:せんだいメディアテーク、内田伸一
定価:5,500 円(税込)判型:H303mm ×W225mm218 ページ|上製本|和英併記
2024 年5 月15 日 一般発売
ISBN:978-4-86541-183-6
発行:赤々舎、せんだいメディアテーク

→ 赤々舎取扱ページはこちら

 

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はじめに

「僕が大きくしたいわけじゃないんです」。アーティスト・飯川雄大の代表作《デコレータークラブピンクの猫の小林さん》が仙台の公園に設置される計画が進んでいた。その大きさは標準的なビルの8階に相当する高さ26m、幅28m、奥行き4mの巨大なサイズ。この巨大なピンクの目をひく作品は、その表面的なキャッチーさの裏で、私たちの視覚や行動を気付かないうちに変容しようと目論む作品だった。しかし、関係各所との様々な調整を経て実現に向かう期待が高まったものの、結果的には実現することができなかった。

この本は、「デコレータークラブ」というシリーズ作品のコンセプトや作品成立条件などをビジュアルと論考を通して理解に努めるとともに、今回、実現に至らなかった経過を、ひとつのアートプロジェクトが実現しえなかった事例として残すための本である。

前半では、飯川雄大が、2007年から発表している「デコレータークラブ」のコンセプトに基づく作品のビジュアルとともに、視覚や認知に対する問題意識がどのように作品に反映され、鑑賞者を巻き込むことが前提となった作品へと至っていくのか、有識者による論考なども交え、考察する。

後半では、仙台のプロジェクトの始動から、《ピンクの猫の小林さん》の断念までの記録を写真や資料をもとに追うとともに、なぜ巨大なサイズの作品が計画されたのか、そしてなぜ実現できなかったのかをアーティストとマネジメント双方の視点を通して、本当の猫のように気ままで思い通りにならない《ピンクの猫の小林さん》の作品成立条件から明らかにする。

飯川雄大のこれまでの作品集としても、公共空間で実施するアート・プロジェクトのひとつの事例としても参考となるような本を目指した。多くのアーティストやアーティストとの仕事を考えている方々にも読んでもらえればと思う。

せんだい・アート・ノード・プロジェクト (せんだいメディアテーク)

 

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もしあなたが、デコレータークラブとどこかで遭遇した時、

そこで起きた「衝動」を誰かに伝えることはできるだろうか?

飯川雄大

 

《デコレータークラブ ベリーヘビーバッグ》、2020年、スポーツバッグ、サイズ可変、
ヨコハマトリエンナーレ 2020「AFTERGLOW―光の破片をつかまえる」横浜市美術館、PLOT 48(神奈川) 、撮影:大塚敬太

 

本書収録 各論考(和英併記)より抜粋

今日的な公共彫刻とは、リアルな空間において人々の行動を誘発するもの、
そして人々の口の端に上り、バーチャルな空間でも同じ存在感を持って受容される作品のことであるだろう。

– 木村絵理子(キュレーター、弘前れんが倉庫美術館館長)…「公共空間において彫刻はその存在を擬態できるか?」より

 

飯川の「カワイイ」は一筋縄ではいかない。
これは、実は「カワイイ」自体がそれほど単純な形式ではないこととも関係している。

– イ・アルム(美学研究者、YPC SPACE[ソウル]共同ディレクター)…『「カワイイ」 怪獣の出現 :《 ピンクの猫の小林さん》 と対面する』 より

 

アーティストの一見馬鹿げたようなアイデアは
都市の許容力やヴァイタリティを示すバロメーターになるかもしれない。

– 五十嵐太郎(建築史・建築批評)…「想像力を通じて、 風景を変容させる」より

 

デコレータークラブが持つ「出会いがしら」の力で、
目撃者たちの頭の中にも「何これ」「カワイイな」「でも写真に全貌が写らない!」といった困惑をともなうマッサージが起こる。

– 甲斐賢治(せんだいメディアテーク アーティスティック・ディレクター)…座談会「《ピンクの猫の小林さん》 仙台版への道のり」より

 

 

《デコレータークラブ̶配置・調整・周遊》(展示風景)、2022年、「感覚の領域 今、『経験する』ということ」、国立国際美術館(大阪)、撮影:飯川雄大

 

 

 

飯川 雄大(いいかわ・たけひろ)

1981 年兵庫県生まれ。現在、神戸を拠点に活動。成安造形大学情報デザイン学科ビデオクラスを卒業。2007 年から〈デコレータークラブ〉の制作を始める。鑑賞者が作品に関わることで変容していく物や空間が、別の場所で同時に起きる事象と繋がる《0 人もしくは1 人以上の観客に向けて》(2019 ―)、全貌を捉えることのできない大きな猫の立体作品《ピンクの猫の小林さん》(2016 ―)などを制作し、鑑賞者の行為によって起きる偶然をポジティブに捉え、見るものに思考を誘発しながら展開している。主な個展に、「未来のための定規と縄」(鹿児島県霧島アートの森、2023 年)、「同時に起きる、もしくは遅れて気づく」(彫刻の森美術館、2022年)、主なグループ展に「感覚の領域 今、『経験する』ということ」(国立国際美術館、2022 年)、「ヨコハマトリエンナーレ2020」(PLOT48、2020 年)、「六本木クロッシング2019 展」( 森美術館、2019 年) などがある。

 

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【関連展示情報】

飯川雄大 個展 「デコレータークラブ:ニューディスプレイ」 

会期:202461日(土)~77日(日)

時間:12:0019:00

会場:CAPSULE(東京都世田谷区池尻 2-7-12 B1

土日のみオープン

オープニング・トーク:61 17:00 参加無料 

 

飯川雄大 参加企画展 「⽇常アップデート」 

会期:2024615日(土)~91日(日)

時間:11:0019:00

会場:東京都渋谷公園通りギャラリー(東京都渋谷区神南1-19-8

休廊:月曜(7/158/12は開館)、および、7/168/13 休廊

 

飯川雄大 参加企画展
What’s art? アートって、なに? ~ミュージアムで過ごす、みる・しる・あそぶの夏やすみ」 

会期:2024629日(土)~825日(日)

時間:9:0017:00

会場:鳥取県立博物館(鳥取県鳥取市東町2-124

休館:729日(月)

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